個人再生の偏頗弁済とは?手続き前に一部だけ返すと起きること
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偏頗弁済(へんぱべんさい)とは、借金を返せない状態になってから、一部の債権者にだけ返して、ほかの債権者との公平を崩す行為の通称です。個人再生の前に家族への借金だけ先に返す、という行動がこれにあたりえます。手続きの開始後は、計画によらない返済そのものが禁じられます。開始前に返した分も、返済総額を押し上げたり、自己破産に切り替えたときに取り戻しの対象になったりします。この記事では、条文で確かめられる範囲で、避けたい返済と、すでに返したときの動き方を示します。
偏頗弁済とは|条文では「特定の債権者への担保の供与等」
「偏頗弁済」は、法律の見出しの言葉ではありません。破産法162条の「特定の債権者に対する担保の供与等の否認」が、実務で偏頗弁済と呼ばれています。破産では、管財人が、こうした返済を取り消して財産を取り戻せます。
| 返済の時期・種類 | 取り戻しの対象になるか |
|---|---|
| 支払不能になる前の、約束どおりの返済 | 対象にならない(義務に属する行為) |
| 支払不能になる前30日以内の、約束外の返済(繰上げ返済など) | 対象になる。ただし相手が他の債権者を害すると知らなかったときを除く |
| 支払不能になった後の返済 | 対象になる。ただし相手が支払不能や支払の停止を知っていた場合に限る |
| 破産の申立てがあった後の返済 | 対象になる。ただし相手が申立てを知っていた場合に限る |
支払不能とは、支払能力を欠くために、弁済期にある債務を一般的かつ継続的に返せない状態です(破産法2条11項)。支払の停止(返済を止めること)があった後は、申立ての前1年以内のものに限り、支払不能であったと推定されます(162条3項)。相手が親族や同居者のときは、返済の当時、相手が支払不能や支払の停止を知っていたと推定されます(162条2項1号、161条2項3号)。
つまり、家族への返済は、他の債権者への返済より、取り戻しの対象とされやすい位置にあります。
個人再生では、前に返した分はどう扱われるか
個人再生には、破産のような否認権の規定は使われません。民事再生法の否認権の節は、小規模個人再生にも給与所得者等再生にも適用しないと定められているからです(238条、245条)。民事再生法127条の3に、破産法162条と同じ内容の定めがありますが、個人再生では取り戻しの手続き自体がありません。それでも、返済には次の2つの形で響きます。
開始後の返済は禁じられます。 再生債権は、再生手続の開始後、再生計画によらなければ返済も受取りもできません(85条1項)。東京地方裁判所の案内も、手続きが開始されると再生債権者への返済は禁止されると注意しています。
開始前の返済は、清算価値に響きます。 個人再生の返済総額は、自分の財産を処分して返す場合の額(清算価値)を上回らなければなりません(裁判所「個人再生手続」、民事再生法174条2項4号・241条2項2号)。破産なら取り戻せたはずの財産を、清算価値に数える考え方があります。条文には加算の方法は書かれておらず、評価は申立先の書式(財産目録及び清算価値算出シート)と依頼先で確かめます。次の表は、加算された場合の筆者の計算例です。
| 返していない場合 | 家族に90万円返していた場合 | |
|---|---|---|
| 住宅ローンを除く借金 | 490万円(家族からの借入れ90万円を含む) | 400万円(家族の分を返した後の残り) |
| 最低弁済額(100万円以上500万円以下は100万円) | 100万円 | 100万円 |
| 清算価値(預金・保険などの財産) | 50万円 | 50万円+返した90万円=140万円(加算された場合) |
| 計画で返す総額(大きいほう) | 100万円 | 140万円 |
| 36回で割った月の額 | 約2.8万円 | 約3.9万円 |
この例では、家族に先に返した90万円は戻らないうえ、計画で返す額も40万円増える計算です。返していなければ、家族の90万円も他の借金と同じ割合で減り、返す総額は100万円で済みました。
あたる例と、あたらない支払い
次のような返済は、偏頗弁済にあたりうるものです。
- 親・兄弟・友人からの借入れだけを、先に返す
- 勤務先からの借入れ(社内貸付など)を、まとめて返す
- 保証人に迷惑をかけないよう、保証人がついた借入れだけを完済する
- 返済を続けられなくなった後も、特定のカード会社にだけ払い続ける
- 保険の解約金やボーナスを、特定の1社への返済にあてる
あたりにくいのは、日々の生活のための支払いです。今月の家賃、光熱費、食費、通信費は、借金の返済とは別に払います。税金や社会保険料は、一般優先債権として再生手続の外で払う扱いです(122条2項)。ただし、滞納している分の払い方は、依頼先に確かめてから動きます。
家族からの借入れは、個人再生でも債権者の一人です。債権者一覧表に載せると、他の債権者と同じ割合で減ります。計画の内容は、不利益を受ける債権者の同意がない限り、債権者の間で平等でなければならないためです(229条1項)。家族にだけ満額を返したい、という計画は、原則として作れません。
すでに返してしまったときの動き方
返した後でも、次の順で動けば、被害を広げずに済みます。
- 同じことを、これ以上しない。残りの返済も止めます。
- 返した日・相手・金額・方法・理由を、通帳や振込明細とあわせてメモにする。
- 依頼先に、隠さずに伝える。
- 返した相手に、返金を求めるかどうかを、自分では決めない。依頼先と、手続き全体の見通しで判断します。
- 返した相手の分の残りがあれば、債権者一覧表に載せる。
借入先の漏れや金額の誤りも、手続きを進められなくする原因です。東京地方裁判所の案内は、開始後に債権者一覧表の訂正は認められないと注意しています。失敗の全体像は個人再生が失敗する場合|却下・不認可・取消しになる原因で、清算価値の考え方は個人再生の清算価値とは?財産が多いと返済額が増える仕組みで見られます。
自己破産に進むときは|否認と免責不許可事由
個人再生が認可されず、自己破産に進む場合は、返した分が取り戻しの対象になりえます。特定の債権者に特別の利益を与える目的で、義務でない返済をしたことは、免責不許可事由にも挙げられています(破産法252条1項3号)。ただし、裁判所は、一切の事情を考えて免責を許可できます(同条2項)。どうなるかは事件ごとに違うため、返した事実を先に依頼先へ伝えておくことが、選べる手を残します。
申立ての前に避けたい行為の全体は自己破産で嘘はバレる?申立て前にしてはいけない財産の移動と返済に、家族や友人の借金の扱いは個人間の借金も債務整理の対象?家族や友人への借金の扱いにまとめています。
よくある質問
Q. 親から借りたお金を、個人再生の前に返してはいけませんか?
返済を急ぐのは控えます。返済の時期によっては、自己破産に進んだ場合に管財人が取り戻す対象になり、個人再生でも返した額が清算価値に響いて、返済総額が増える原因になりえます。借りた相手が親でも、債権者一覧表に載せて、依頼先に返し方を相談します。
Q. 手続きの前に返してしまったことは、隠したほうがよいですか?
隠さずに依頼先へ伝えます。返した日・相手・金額・方法・理由は、通帳や振込明細と合わせて整理しておくと、申立ての書類に正しく反映できます。隠すと、財産目録や陳述の食い違いとして後で問題になるおそれがあります。
Q. 家賃や光熱費、毎月のスマホ代を払い続けるのも偏頗弁済ですか?
日々の生活のための支払いは、借金の返済とは別です。滞納している分や、分割払いの端末代のような「借金に近い支払い」は扱いが分かれるので、払い続ける前に依頼先に確かめます。税金や社会保険料は、再生手続の外で払う扱いです(民事再生法122条2項)。
出典・参考にした公的な情報
- 民事再生法 第85条・第127条の3・第174条・第229条・第238条・第241条・第245条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 破産法 第2条・第161条・第162条・第252条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 個人再生手続(裁判所)(最高裁判所)
- よくある質問 個人再生手続について(東京地方裁判所民事第20部)(東京地方裁判所)
- 個人再生手続の申立てに当たって(東京地方裁判所)令和7年11月1日以降適用(東京地方裁判所)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。