個人再生の清算価値とは?財産が多いと返済額が増える仕組み
個人再生の清算価値とは、仮に自分が自己破産して財産をお金に換えたとしたら、債権者に配当される額に当たる金額です。裁判所の説明では、債務者が自分の財産を処分して返済に充てる場合の額のことで、個人再生で返す総額はこれを上回らなければなりません。財産が少ない人は最低弁済額が下限になり、預金・保険の解約返戻金・退職金の見込み額などが多い人は、清算価値が下限になって返す額が増えます。この記事では、その仕組みと、財産ごとの評価の考え方、計算例を示します。
清算価値とは|「清算価値保障原則」の意味
個人再生は、債権者にとって、自己破産で配当を受けるより悪い結果になってはいけない、という前提で作られています。この考え方を、清算価値保障原則と呼びます。条文の言葉ではなく、通称です。根拠は、再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するときは認可しないという定めです(民事再生法174条2項4号。小規模個人再生は231条1項、給与所得者等再生は241条2項2号)。
計画の認可のあとも、守る必要があります。認可後に、計画弁済総額が、認可の時に破産した場合の配当総額を下回ることが明らかになったときは、債権者の申立てで再生計画が取り消されることがあります(236条・242条)。
最低弁済額との関係は、次のとおりです。
- 最低弁済額:借金の額から、条文の基準で機械的に出る額
- 清算価値:自分の財産を評価して足し合わせた額 → 1と2を比べて、多いほうが返す総額の下限 (給与所得者等再生では、可処分所得の2年分も比べる)
最低弁済額の出し方は個人再生の最低弁済額の早見表|借金額ごとの返済総額と計算の仕方にあります。
財産ごとの評価の考え方
清算価値は、破産したと仮定したときに、換価されて配当に回る財産を数えます。破産法では、手続開始の時に持っていた財産が破産財団になりますが、差し押さえが禁止された財産と、現金のうち99万円(民事執行法施行令の66万円の2分の3)までは含まれません(破産法34条3項)。預金は条文上は現金と別の扱いで、「99万円まで何でも残せる」わけではありません。どこまでを清算価値に入れるかの細かい基準は、条文ではなく裁判所の運用で決まるため、申立先の書式と依頼先の説明で確かめます。考え方の基本を財産別に整理します。
| 財産 | 評価の考え方 | 注意 |
|---|---|---|
| 現金・預貯金 | 残高を基本にする(評価する日は申立先の書式で確かめる) | 口座の動きは通帳で見られる |
| 生命保険などの解約返戻金 | 解約したと仮定した時に戻る額 | 保険会社に試算を依頼する |
| 車 | 売却したと仮定した時の価値(査定額) | ローン残と所有権の所在で変わる |
| 不動産 | 時価からローン残高を引いた額 | オーバーローンなら価値は小さくなる |
| 退職金の見込み額 | 差押えできる部分は4分の1までが上限 | 割合は裁判所の運用 |
| 生活に欠かせない家財 | 差押え禁止の財産は含まれない | 高価な物は別 |
預貯金と解約返戻金:残高や、解約した場合の戻り額が、そのまま財産です。解約しなくても、評価には入ります。保険は、解約返戻金がある契約ほど財産としての評価が大きくなります。
車:時価(中古車の査定額)が基本です。ローンが残っていて、所有権がローン会社にある車は、売っても手元にお金が残らないことがあります。時価がローン残を上回る部分があれば、その分が財産、下回るなら価値はないという計算が基本形です。ローン中の車そのものの扱いは個人再生で車はどうなる?ローン中の車と完済した車で違う扱いで説明しています。
不動産:家の時価と住宅ローン残高の差で考えます。ローン残高が時価を上回るオーバーローンなら、清算価値はゼロ近くになり、下回るアンダーローンなら、差額が財産として加わります。計算例は個人再生のオーバーローンとアンダーローン|家の価値で変わることにあります。
退職金の見込み額:会社を今すぐ辞めたとしたら受け取れるはずの退職金が、財産として評価されます。民事執行法152条2項は、退職手当の4分の3を差押え禁止としています。すると差し押さえられるのは4分の1までなので、清算価値に入る額も、見込み額の4分の1が上限の目安です。実際にどの割合を入れるかは、勤続年数や支給時期などを見て、裁判所ごとに運用が違います。会社に退職金支給見込額を出してもらうなど、依頼先から資料を求められる場合があります。
生活に欠かせない家財:衣服、寝具、家具、台所用具など生活に欠くことができないものは、差し押さえが禁止されていて、清算価値には入りません(民事執行法131条)。高価な美術品や貴金属は別に評価されえます。
計算例|財産が多いと返済額はどう変わるか
借金が600万円(住宅ローンなし)で、最低弁済額が120万円の人を例に、清算価値で返す額がどう変わるかを示します。評価額はすべて筆者の仮定です。
| 例A:財産が少ない | 例B:財産が多い | |
|---|---|---|
| 預貯金 | 20万円 | 50万円 |
| 保険の解約返戻金 | 60万円 | 120万円 |
| 車(査定額、ローンなし) | 30万円 | 0円 |
| 退職金の見込み額800万円のうち4分の1 | 0円(退職金の制度がないと仮定) | 200万円 |
| 清算価値の合計 | 110万円 | 370万円 |
| 最低弁済額 | 120万円 | 120万円 |
| 返す額の下限(多いほう) | 120万円 | 370万円 |
| 36回の月額 | 約3.3万円 | 約10.3万円 |
例Aでは、清算価値の110万円が最低弁済額の120万円を下回るので、下限は120万円です。例Bでは、清算価値の370万円が上回り、下限が370万円まで上がります。月に約10.3万円を3年返す計算で、家計で払えるかが問題になります。払える額を超える場合は、返す期間を5年にのばせるかなどを含め、依頼先と検討します。
清算価値が増える要因は、財産の多さだけではありません。手続きの直前に家族や友人だけに返済した場合の扱いは、条文にはなく、裁判所と依頼先の運用で決まります。財産を移した場合も、その分が評価から外れるとは限りません。財産目録に載せるべき財産を載せなかったり、不正の記載をしたりすると、裁判所は手続きを廃止できます(民事再生法237条2項)。心当たりがあるときは、申立ての前に依頼先へ漏れなく伝えてください。開始決定の後に特定の借金だけ返すことも禁じられています(85条1項)。手続き前の一部返済については個人再生の偏頗弁済とは?手続き前に一部だけ返すと起きることで扱います。
清算価値を考えるときの順序
財産の評価は、見積もりしだいで返済額が数百万円変わりうる部分です。進め方は次のとおりです。
- 預貯金、保険、車、不動産、退職金など、財産を漏れなく一覧にする
- 保険は解約返戻金の試算、車は査定、不動産は査定書で、評価の根拠をそろえる
- 申立先の裁判所の書式で、どの財産をどの割合で評価するかを依頼先に聞く
- 最低弁済額と比べ、多いほうを返す額の下限として、月々の返済額を試算する
個人再生の全体像は個人再生とは?いくら減るかの決まり方と家を残す条件・流れに、給与所得者等再生で追加される可処分所得の基準は個人再生の給与所得者再生とは?小規模個人再生との違いと選び方にあります。次に読むなら、後者の違いと選び方が続きです。
よくある質問
Q. 個人再生で退職金は財産として扱われますか?
退職金の見込み額は、評価の対象になりえます。民事執行法152条2項は、退職手当の4分の3を差押え禁止としているため、差し押さえられる部分は4分の1までです。清算価値にどの割合で入れるかは、裁判所と依頼先の運用で決まります。
Q. 清算価値が最低弁済額より大きいと、どうなりますか?
返す額の下限が、清算価値の額まで上がります。たとえば最低弁済額が120万円でも、清算価値が250万円と評価されれば、返す総額は250万円以上になります。裁判所は、返済総額が清算価値を上回ることを求めています。
出典・参考にした公的な情報
- 民事再生法 第85条・第174条・第231条・第236条・第237条・第241条・第242条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 個人再生手続(裁判所)(最高裁判所)
- 破産法 第34条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民事執行法 第131条・第152条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民事執行法施行令 第1条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。