限定承認とは?借金と財産のどちらが多いか分からないとき
限定承認とは、相続で得た財産の限度でだけ、故人の借金を返すことを条件に相続を承認する方法です(民法922条)。借金が財産より多くても、自分の財産から足りない分を払う必要がなく、財産が多く残るなら、借金を払った残りを受け取れます。借金と財産のどちらが多いか分からないときに検討しますが、相続人全員で、3か月以内に、家庭裁判所に申述する条件があり、手続の負担は軽くありません。全体の流れは借金は相続される?親が亡くなった後に確かめる順番と期限にあります。
限定承認の仕組み|単純承認と何が違うか
単純承認では、財産も借金も無制限に引き継ぎます(民法920条)。借金が財産を上回ると、上回った分は自分の財産から払うことになります。限定承認では、払う範囲が相続した財産までに限られます。
たとえば、親の財産が800万円、借金が1,500万円だったとします。単純承認だと、引き継ぐ借金は1,500万円で、財産800万円を使い切っても700万円が残ります(筆者の計算)。限定承認なら、800万円の財産を債権者に配当して終わり、残りの700万円は払いません。逆に財産が2,000万円、借金が500万円なら、500万円を払った残りの1,500万円を受け取れます。
限定承認が検討されるのは、調べても全体像がつかめない場合です。借金の調べ方は親が死亡したら借金を調べる方法|信用情報の開示と郵便物の確認で説明しています。
限定承認の手続|申述から配当まで
- 3か月以内に、相続人全員で財産目録を作り、家庭裁判所に限定承認の申述をする
- 限定承認をした後5日以内に、債権者と受遺者へ公告をする(官報に載せる。請求の申出の期間は2か月以上)
- 知れている債権者には、個別に請求の申出を促す通知をする
- 公告の期間が過ぎたら、相続財産で債権者に債権額の割合に応じて弁済する
- 財産を売る必要があるときは、原則として競売にかける
申述の条件は次のとおりです。申述人は相続人全員が共同し、期間は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内、申述先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所です。費用は収入印紙800円分と連絡用の郵便切手で、切手の額は裁判所ごとに違います(裁判所の案内)。条文は、相続財産の目録を作って家庭裁判所に出すことも求めています(924条)。
必要な書類は、申述書、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、住民票除票または戸籍附票、申述人全員の戸籍謄本が基本で、相続の順位に応じて追加があります。3か月に間に合わないときは、期間の伸長を申し立てられます。
受理された後が、限定承認の重い部分です。限定承認をした人(限定承認者)は、5日以内に、すべての債権者と遺贈を受けた人に向けて、限定承認をしたことと一定の期間内に請求を申し出るべきことを官報で公告します。この期間は2か月を下れません(927条)。知れている債権者には、個別に申出を促します。期間が終わるまでは、債権者への弁済を拒めます(928条)。
期間が終わったら、相続財産で、申し出た債権者と知れている債権者に、債権額の割合に応じて弁済します。優先権のある債権者の権利は害せません(929条)。財産を売る必要があるときは、原則として競売にかけます。家庭裁判所が選んだ鑑定人の評価に従って価額を弁済し、競売を止める方法もあります(932条)。公告や催告を怠ったり、順序を守らず弁済したりして他の債権者に損害が出ると、損害賠償の責任を負います(934条)。
負担と注意点
限定承認が選びにくいとされる理由は、主に次の点にあります。
- 相続人全員が一致する必要がある:1人でも承認や別の判断をすると成り立ちません(923条)。連絡が取れない相続人がいると、進めにくくなります。
- 手続が長く、書類が多い:目録の作成、官報公告、債権者への個別の通知、配当と、相続人が自分で進める手間が続きます。
- 隠匿や消費は責任を重くする:限定承認の後でも、財産を隠したり、勝手に使ったりすると、単純承認とみなされる事由になります(921条3号)。共同相続人の一人にその事由があると、債権者は、相続財産で払いきれなかった分を、その人に相続分に応じて請求できます(937条)。
相続人の一部が相続放棄をした場合、放棄した人は初めから相続人でなかったものとみなされます(939条)。そのため、限定承認をする「全員」は残った相続人を指すと考えられますが、実際の扱いは申述先の家庭裁判所に確かめます。
税の扱い|みなし譲渡と準確定申告
限定承認には、税の取り扱いが加わります。所得税法59条は、限定承認に係る相続で、土地・建物・株式などの譲渡所得の基になる資産が移った場合に、亡くなった人がその時の時価で譲渡したものとみなして、譲渡所得を計算すると定めています。値上がりした不動産などがあると、亡くなった人に所得税がかかり得ます。
年の途中で亡くなった人の所得税の申告(準確定申告)が必要な場合、期限は、相続人が相続の開始を知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までです(所得税法125条)。個別の税額の計算と申告は税理士の業務です。限定承認を考えるときは、財産の中に値上がりした資産がないか確かめて、税務署か税理士に早めに聞いておきます。
相続放棄・単純承認と比べる
| 項目 | 限定承認 | 相続放棄 | 単純承認 |
|---|---|---|---|
| 財産 | 受け取れる(借金を払った残り) | 受け取らない | 全部受け取る |
| 借金 | 相続した財産の範囲まで | 引き継がない | 全部引き継ぐ |
| 申述する人 | 相続人全員が共同 | 各相続人が単独で可 | 手続なし(3か月で成立) |
| 家庭裁判所の申述 | 必要 | 必要 | 不要 |
| 申述後の手続 | 公告・配当などの清算 | なし(次の順位に移る) | なし |
| 税の注意 | みなし譲渡の課税があり得る | 該当しない | 通常の相続税 |
| 向く場面の考え方 | 借金と財産のどちらが多いか分からない | 借金が明らかに多い、引き継ぎたくない | 財産が明らかに多い |
限定承認と相続放棄の手続は、家庭裁判所に申述する点は同じですが、放棄は一人でできる点、申述後に清算が不要な点が大きく違います。放棄の流れは借金の相続放棄|3か月の期限と手続きの流れ・してはいけないことで説明しています。放棄をした後に債権者から請求が届いたときは、相続放棄した後に督促が来たら|伝えることと証明の出し方を読んでください。
誰に相談するか
限定承認は手続が複雑で、官報公告や弁済の順序を誤ると責任を負うため、弁護士か司法書士に相談してから決めるのが現実的です。裁判所に出す書類の作成は司法書士も扱えます。依頼先の違いと、費用の見積もりの確かめ方は債務整理は弁護士と司法書士どっち?140万円の線と選ぶときの確認点にあります。公的な窓口は借金の相談窓口はどこ?公的な窓口の番号・受付時間と選び方から探せます。
よくある質問
Q. 相続人の一人が反対しているとき、ほかの人だけで限定承認できますか?
できません。限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみできると民法923条が定めています。1人でも承認や反対をすると、全員での限定承認は成り立ちません。反対する人が相続放棄をした場合の扱いは、申述先の家庭裁判所に確かめます。
Q. 限定承認をしたあと、故人の財産を一部だけ使ってもよいですか?
避けてください。限定承認をした後でも、相続財産を隠したり、勝手に消費したり、悪意で財産目録に書かなかったりすると、単純承認とみなされる事由になります(民法921条3号)。債権者への弁済も、定められた順序と割合で行います。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第922条〜第937条・第921条・第923条・第924条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続の限定承認の申述(手続の案内・費用・必要書類)(裁判所)
- 相続の承認又は放棄の期間の伸長(手続の案内)(裁判所)
- 所得税法 第59条・第125条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。