借金の相続放棄|3か月の期限と手続きの流れ・してはいけないこと
借金を引き継ぎたくないときは、家庭裁判所に相続放棄を申述します(民法938条)。期限は、自分のために相続が始まったと知った時から3か月以内で、費用は収入印紙800円分(申述人1人につき)と連絡用の郵便切手です。放棄が認められると、初めから相続人でなかったものとみなされます(939条)。この記事では、申述の流れ、必要書類、してはいけないこと、放棄したあとの影響を順に説明します。全体の考え方は借金は相続される?親が亡くなった後に確かめる順番と期限にあります。
相続放棄の手続きの流れ
放棄は、債権者に「払わない」と伝えるだけではできません。家庭裁判所に申述して初めて、法律上の相続放棄になります。
- 死亡を知った日をメモする(3か月の起点)
- 借金と財産を調べ、放棄するか決める(撤回はできない)
- 戸籍などの書類をそろえ、申述書を書く
- 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に、収入印紙800円分と郵便切手を添えて出す
- 裁判所から追加書類を求められたら出す
- 受理されると受理通知書が出される。この通知書は債権者への説明に使う
申述先は、被相続人(亡くなった人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。申述人の住所地の裁判所ではありません。仙台・宇都宮・甲府・静岡・名古屋・大阪・神戸・岡山の各裁判所は、この手続に個別の案内を出しているので、出す前に裁判所のサイトで確かめます。
郵便料は裁判所ごとに額が違います。裁判所は、保管金として納める方法、インターネットバンキングやATMでの電子納付、郵便切手での納付を案内しています。
必要な書類|続柄で変わる
書類は、亡くなった人との続柄で増えます。同じ書類は1通で足ります。
| 続柄 | 共通の書類に加えて必要なもの |
|---|---|
| 配偶者 | 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本 |
| 子・孫など(第1順位) | 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本。孫など代襲者は、本来の相続人の死亡の記載のある戸籍謄本も |
| 親・祖父母(第2順位) | 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本など |
| 兄弟姉妹・おい・めい(第3順位) | 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本に加え、被相続人の父母の出生から死亡までの戸籍謄本、直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本など |
共通の書類は、申述書、被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人の戸籍謄本です。申述前に入手できない戸籍は、申述後に追加で出せる場合があります。戸籍の代わりに法定相続情報一覧図の写しを使えることもあるので、出す裁判所に確かめます。審理のために、ほかの書類を求められることもあります。
3か月がぎりぎりのときは、申述書だけでも先に出して、戸籍を後から追加する方法が使えるかを裁判所に問い合わせます。書類集めに時間がかかるのは、特に第2・第3順位の人です。
してはいけないこと
放棄を考えているあいだに、次のことをすると、放棄が認められなくなるおそれがあります。
- 故人の財産を処分する:相続財産の全部または一部を処分すると、単純承認をしたものとみなされます(民法921条1号)。預金を引き出して使う、故人の車や家財を売る、といった行為です。保存のための行為は例外ですが、当たるかどうかは事情で変わります。
- 財産を隠したり使ったりする:放棄の後でも、相続財産を隠す、勝手に消費する、悪意で財産目録に書かないことは、単純承認とみなされる事由です(921条3号)。
- 故人の借金を自分のお金で返す:払うことが相続の承認にあたるかどうかは扱いが分かれうるので、払う前に弁護士か司法書士に確かめます。
- 「債権者に放棄すると伝えた」だけで終わらせる:家庭裁判所の申述がなければ、法律上の放棄になりません。
- 遺産分割協議で「何も受け取らない」とだけ決める:協議で財産を受け取らないと決めても、相続放棄とは別の話で、借金の引き継ぎは残ります。
葬儀の費用や形見分けがどこまで許されるかは、事情によって判断が分かれます。迷ったら、家庭裁判所や弁護士・司法書士に、行為をする前に聞いておきます。
期限が足りないとき|期間の伸長
財産と借金を調べても、3か月以内に決められないときは、相続の承認又は放棄の期間の伸長を家庭裁判所に申し立てます(民法915条1項)。申立人は利害関係人と検察官で、相続人も含まれます。費用は収入印紙800円分(相続人1人につき)と連絡用の郵便切手で、申立ては3か月以内にする必要があります。
調べる方法は、親が死亡したら借金を調べる方法|信用情報の開示と郵便物の確認に書きました。死亡を知ってから3か月が過ぎた後に、借金があると分かった場合は、放棄が認められるかどうかが事情で変わります。気づいたらすぐ、家庭裁判所か弁護士・司法書士に事情を伝えます。
放棄したあと|次の順位と、全員が放棄したとき
相続放棄をすると、次の順位の人が相続人になります(889条、939条)。子(孫など代襲者を含む)が全員放棄すれば故人の親・祖父母(直系尊属)へ、その世代もいなければ、故人の兄弟姉妹へ移ります。次の順位の人は、自分に回ってきたと知った時から3か月の期間が始まります。放棄をしたら、次の順位の親族には早めに知らせておくと、後の混乱を防げます。
相続人の全員が放棄して、引き継ぐ人がいなくなった場合は、利害関係人の請求で家庭裁判所が相続財産の清算人を選びます(952条)。債権者も利害関係人に含まれます。放棄の時に故人の財産を現に占有している人は、引き渡すまで自己の財産と同じ注意で保存する義務があります(940条1項)。
放棄したのに督促が来たときの対応は相続放棄した後に督促が来たら|伝えることと証明の出し方で説明しています。
誰に相談するか
申述は本人でもでき、裁判所に出す書類の作成は司法書士も行えます(司法書士法3条1項4号)。事情が複雑なときは弁護士に頼む選択肢があります。違いは債務整理は弁護士と司法書士どっち?140万円の線と選ぶときの確認点で整理しています。窓口の番号や受付時間は借金の相談窓口はどこ?公的な窓口の番号・受付時間と選び方から確かめられます。依頼する前に、報酬の額と算定方法、どこまでが料金に含まれるかを書面で示してもらいます。借金と財産のどちらが多いか分からないときは、限定承認とは?借金と財産のどちらが多いか分からないときも検討します。
よくある質問
Q. 相続放棄は、借金だけを放棄して預貯金や家は受け取れますか?
受け取れません。民法939条は、放棄した人は「その相続に関しては」初めから相続人にならなかったものとみなすと定めています。借金も財産も、その相続は丸ごと引き継がないことになります。借金と財産のどちらが多いか分からないときの選び方は、限定承認の記事で比べてください。
Q. 放棄を申し立てたあとで、やはり引き継ぎたいと思ったら撤回できますか?
承認も放棄も、3か月の期間内であっても撤回できません(民法919条1項)。判断の前に、借金と財産を調べて一覧にします。だまされて放棄した場合などの取消しは別に定めがあるので、気づいた時点で弁護士か司法書士に伝えます。
Q. 自分で申述できますか?弁護士や司法書士に頼む必要はありますか?
申述は相続人本人ができ、裁判所は申述書の書式と記載例を案内しています。書類の作成を任せたいときは、司法書士や弁護士に頼む方法があります。頼む前に、報酬の額と算定方法を書面で示してもらいます。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第889条・第915条・第919条・第921条・第938条・第939条・第940条・第952条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続の放棄の申述(手続の案内・費用・必要書類)(裁判所)
- 相続の承認又は放棄の期間の伸長(手続の案内)(裁判所)
- 相続財産清算人の選任(手続の案内)(裁判所)
- 司法書士法 第3条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。