自己破産 / 悩み整理

個人事業主の自己破産|事業を続けられるかと売掛金・道具の扱い

この記事のもくじ
  1. 事業用の財産は、破産でどう扱われるか
  2. 個人事業主が管財事件になりやすい理由
  3. 事業を続けられるかを決める4つの見方
  4. 事業を続けたいなら、個人再生との比較
  5. 申立て前にやることと、やってはいけないこと

個人事業主の自己破産では、事業に使っている財産も、生活の財産と合わせて「本人の財産」として扱われます。売掛金・在庫・事業用の預金は、破産財団に入り、破産管財人が管理して換価(売却や回収)するのが基本です。東京地方裁判所は、債務者が個人事業者の場合を、原則として管財事件として扱う例に挙げています。ただし仕事に欠かせない道具には残るものもあり、手続きのあとに事業を続けられるかは、残る財産と取引先との関係で決まります。ここでは財産ごとの扱い、事業を続ける判断軸、個人再生との違いを整理します。

事業用の財産は、破産でどう扱われるか

破産手続開始の時に持っている一切の財産は、破産財団になります(破産法34条1項)。財団に入った財産の管理と処分は、裁判所が選んだ破産管財人に専属します(78条1項)。事業用の財産の扱いは、次のとおりです。

早見表:事業用の財産の扱い
財産 破産での扱い 注意点
売掛金(取引先から受け取る代金) 破産財団に入り、管財人が回収する 自分で回収して仕入先に払うのは禁物です。特定の債権者だけに返すと、否認の対象にも免責不許可事由にもなりえます(162条・252条1項3号)
在庫・商品 破産財団に入り、換価される 民事執行法131条6号の「業務に欠くことができない器具」から、商品は除かれています
仕事に欠かせない器具・道具 差押えが禁止された財産は、破産財団に属しない(34条3項2号) 職人や技術者など、主に自分の労働で営業する人の「業務に欠くことができない器具その他の物」が対象です(民事執行法131条6号)。何が当たるかは、事業の内容で個別に判断されます
事業用の預金・現金 現金は99万円(66万円の2分の3)までの金銭が財団に属しません。預金は換価の対象になりえる 99万円は現金の額です。預金や保険の解約返戻金をどこまで残せるかは裁判所ごとの運用で、裁判所が手元に残せる財産の範囲を広げる決定をすることもあります(34条4項)
事務所・店舗の賃貸借 管財人が契約を解除するか、履行して続けるかを選べる(53条1項) 貸主は、管財人に確答を催告できます(同条2項)
事業用の車・機械 換価の対象。ローンが残っていれば担保権者の扱いになる 事業を続けたい物は、手放すことになるか、先に依頼先と相談します

差押禁止の現金は、民事執行法131条3号と施行令の66万円に、2分の3を掛けた99万円と、破産法34条3項1号が定めています。

個人事業主が管財事件になりやすい理由

自己破産には、管財人を選ぶ「管財事件」と、選ばない「同時廃止事件」があります。管財事件が原則です。破産財団で破産手続の費用を支払うのに足りないと認めるとき、開始決定と同時に手続きを廃止します(破産法216条1項)。どちらになるかは裁判所が決めます。

東京地方裁判所は、申立人の事前の調査を踏まえ、次のような場合を原則として管財事件として扱うと案内しています。

  • 20万円以上の換価対象資産(預貯金、保険の解約返戻金、未払報酬・賃金など)がある
  • 資産調査が必要な場合
  • 法人の代表者または個人事業者の場合
  • 免責調査を経ることが相当な場合

個人事業者は、売掛金・在庫・設備のような換価できる財産が見込まれ、帳簿や取引の調査が必要になるためと考えられます。ただし、地域や事案によって運用は違います。同時廃止との違い、費用と期間は自己破産の同時廃止と管財事件の違い|分かれ目と費用・期間で確かめられます。

事業を続けられるかを決める4つの見方

続けられるかは、次の4つを順に見ます。

  1. 財産が残るか:仕事に欠かせない道具が差押禁止の範囲に入るか。売掛金や在庫を失っても、仕入れの資金を用意できるか
  2. 資格の制限があるか:業種の許可・登録が、破産者を欠格にしているか。免責の確定で復権するまでの間の制限です(自己破産の復権とは?資格制限が解ける時期と免責確定までの期間)
  3. 取引先との関係:買掛金は破産債権として免責の対象ですが、仕入れ先との取引が続くかは、取引先の判断です
  4. 賃貸借と従業員:事務所・店舗を管財人が解除すると、場所を探し直す必要があります。従業員の給料は、破産手続開始前3か月分が財団債権とされ(破産法149条1項)、免責されない請求にも入ります(253条1項5号)

破産手続開始の後に得た収入は、開始の時の財産に含まれないため、破産財団に入りません(34条1項)。手続きのあとの稼ぎは、自分のものとして使えます。

税金と社会保険料は、事業者に多い滞納です。免責されない請求なので、手続きのあとも払い続ける前提で、資金計画を組みます(自己破産しても払う必要がある支払い|税金・養育費などの一覧)。

事業を続けたいなら、個人再生との比較

財産を手放さずに事業を続けたい場合は、個人再生が選択肢になります。自己破産と並べると次のとおりです。

項目 自己破産 小規模個人再生
事業用の財産 管財人が換価する。差押禁止の道具は残る 手放さずに続けられる。ただし、破産した場合の配当額(清算価値)以上を返す必要がある(民事再生法174条2項4号・231条1項)
借金の整理 免責が確定すると責任を免れる(253条1項) 再生計画で減額された額を、原則3年(最長5年)で返す
利用の前提 支払不能(破産法15条) 継続的または反復して収入を得る見込みがあり、再生債権の総額(住宅資金貸付債権等を除く)が5,000万円以下(民事再生法221条1項)
税金・社会保険料 免責されない 減額されず、再生手続によらないで随時弁済(民事再生法122条)
従業員の給料 免責されない(253条1項5号) 一般の優先権がある債権に当たれば、手続きの外で払う扱い(同法122条)。当たるかは依頼先に確かめます

事業収入は月ごとに変わることが多いため、再生計画を最後まで払える収入の見込みがあるかが焦点です。財産の評価と返済額の関係は個人再生の清算価値とは?財産が多いと返済額が増える仕組みに、手続きの比較は自己破産と個人再生の違い|家・仕事・返済額で選ぶ判断材料にまとめました。事業の借入と生活の借金を分けて整理する考え方は、個人事業主の債務整理|事業の借入と生活の借金を分けて考えるが入口です。

申立て前にやることと、やってはいけないこと

準備する資料は次のとおりです。

  • 帳簿、確定申告書の控え、請求書・領収書
  • 売掛金の一覧(取引先名、金額、入金予定日)
  • 在庫・設備の一覧と購入時期
  • 事業用口座と個人口座の通帳
  • 事務所・店舗の賃貸借契約書、従業員の一覧

やってはいけないことは、次の3つです。

  1. 売掛金や在庫を隠す、安く処分する(252条1項1号)
  2. 帳簿・書類を捨てる、書き換える(同項6号)
  3. 売掛金を回収して、特定の取引先や親族にだけ返す(162条、252条1項3号)

体験談を読むときは、事業の業種、売掛金や在庫の有無、管財か同時廃止か、免責の結果を見比べてください。事情が違えば結果も違うため、同じ個人事業主でも参考にとどめます。

よくある質問

Q. 自己破産をすると、個人事業は廃業になりますか?

破産したからといって、事業をやめなければならないと決まっているわけではありません。ただ、事業に使っていた売掛金・在庫・設備は管財人が管理する対象になり、業種によっては資格制限も重なります。続けられるかは、残る財産、仕入れ先や賃貸借、資格の有無を一つずつ見て判断します。

Q. 取引先や従業員に、自己破産のことは知られますか?

取引先への買掛金も破産債権として債権者一覧に載るため、裁判所から通知が届きます。従業員の未払いの給料がある場合も同じで、免責の対象外です。伝える時期と内容は、申立ての前に依頼先と決めておきます。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

個人事業主の債務整理|事業の借入と生活の借金を分けて考える

自己破産の同時廃止と管財事件の違い|分かれ目と費用・期間

自己破産しても払う必要がある支払い|税金・養育費などの一覧

自己破産と個人再生の違い|家・仕事・返済額で選ぶ判断材料