個人再生の履行テストとは?積立の目的と払えなかった場合
履行テストとは、再生計画で約束する毎月の返済額を、手続の途中で実際に払い続けられるかを試す、裁判所の運用です。民事再生法に「履行テスト」という言葉はなく、積立の額や期間も法律では決まっていません。東京地方裁判所は、計画弁済予定額を個人再生委員の指定口座に毎月振り込むよう案内しています。この積立が続かないと、計画を最後まで払える見込みがないと見られて、不認可や手続の廃止につながります。
履行テストは何のためにあるのか
個人再生の再生計画は、3年(特別の事情があれば最長5年)にわたって毎月の返済を続けるものです(民事再生法229条2項)。ところが、裁判所は計画を認めるかどうかを決める段階で、まだ1円も払っていない人の「払えるはず」を信じるしかありません。そこで、認可の前に実際に払う姿を見せてもらう仕組みが、履行テストです。
条文の根拠は、再生計画が認可されない場合を並べた174条2項2号にあります。「再生計画が遂行される見込みがないとき」は、不認可の決定がされます。小規模個人再生では231条1項がこの規定を引いているので、遂行の見込みは審査の対象です。履行テストは、その見込みを数字で示す方法の一つです。
| 項目 | 法律(民事再生法) | 裁判所の運用 |
|---|---|---|
| 計画を払える見込みが必要か | 必要(174条2項2号。不認可の理由) | — |
| 履行テストをするか | 定めなし | 裁判所ごとに方法が違う |
| 個人再生委員を選ぶか | 「必要があると認めるとき」に選べる(223条1項) | 東京地裁は申立書を審査して全件で選任。札幌地裁は本人申立事件(司法書士が関与する事件を含む)で原則選任 |
| 積立の額 | 定めなし | 計画弁済予定額(毎月の返済見込み額)が基準 |
| 積立の期間 | 定めなし | 申立先と委員の指示 |
札幌地方裁判所の申立書は、別の形で同じ確認をしています。「1か月当たりの計画弁済額」と「1か月当たりの弁済原資とすることができる金額」を並べて書かせ、家計全体の状況の表に照らして、その金額を毎月捻出できる理由を説明させる欄があります。公表されている書式からは、積立を求めるかどうかまでは分かりません。ただ、少なくとも書面の上では、毎月の返済額を出せる根拠を家計表と文章で示す形になっています。どの方法になるかは、申立てをする地方裁判所と依頼先の運用で決まります。
積立の額は「毎月の計画弁済予定額」で決まる
東京地裁の案内では、個人再生委員から振込口座の通知が届き、再生債務者は計画弁済予定額を委員が指定した期限までに振り込みます。つまり積立の額は、再生計画で払うと見込んでいる毎月の返済額と同じです。
毎月の額は、計画弁済総額を返済の回数で割って出します。総額の下限は、民事再生法231条2項の最低弁済額で、次の表のようになります。毎月払いで3年なら36回、5年なら60回です。下の金額は条文から作った筆者の計算で、実際の額は債権の内容と財産の状況で変わります。
| 住宅ローンを除く借金の総額 | 最低弁済額(総額) | 3年(36回)の月額 | 5年(60回)の月額 |
|---|---|---|---|
| 400万円 | 100万円 | 約2万8千円 | 約1万7千円 |
| 800万円 | 160万円(5分の1) | 約4万4千円 | 約2万7千円 |
| 2,000万円 | 300万円(5分の1が400万円で上限300万円) | 約8万3千円 | 約5万円 |
この表は最低線です。持っている財産を処分した場合の価値(清算価値)のほうが多ければ、返す総額はそちらまで上がります。給与所得者等再生なら、手取り収入から最低限の生活費を引いた額の2年分以上も条件です(241条2項7号)。上の額の決まり方は個人再生の最低弁済額の早見表に、清算価値の考え方は個人再生の清算価値とは?財産が多いと返済額が増える仕組みにあります。
期間は、法律にも東京地裁の公表資料にも月数の記載がありません。公表資料で確かめられた範囲では、次のとおりです。
| 裁判所 | 公表資料の内容 | 資料 |
|---|---|---|
| 東京地方裁判所 | 計画弁済予定額を委員の口座へ毎月振り込む。月数の記載なし | 民事第20部Q&A(2026-10-23閲覧) |
| 旭川地方裁判所 | 返済予定額の総額÷36の額を、申立て後から認可・確定までの間、毎月積み立てる(月数ではなく認可までの期間) | 民事再生手続について(2020年9月版) |
| 千葉地方裁判所 | 家計収支の欄に「履行テストの積立て」を書く。月数の記載なし | 小規模個人再生手続開始申立書(R6.3.1) |
ネットで見かける「〇か月」という数字は、特定の事務所や裁判所の運用であることが多く、自分の申立先に当てはまるとは限りません。依頼先に、申立先の裁判所で何か月分を、いつまでに、どの口座へ払うのかを書面か画面で示してもらい、家計に落とし込みます。
毎月の額を無理なく払えるかは、家計表で先に確かめます。借金の返済に回していたお金が空く分で足りるか、足りないなら支出を削るか計画の期間を延ばせるかを考えます。家計表の付け方は個人再生の家計簿の付け方にまとめています。
払えなかった場合に起きること
遅れの大きさと時期で、起きることが変わります。
払えなかった時期別の扱いは次のとおりです。
| 時期 | 起きること | 根拠 |
|---|---|---|
| 履行テストの途中で1回遅れた | すぐ手続が終わるとは書かれていない。委員が事情を聞いて判断する | 東京地裁Q&A(振込漏れを避けるよう案内) |
| 履行テストが続かない | 計画を遂行する見込みがないとして、不認可になることがある | 民事再生法174条2項2号 |
| 計画案を作れないことが明らかになった、期限までに出せない | 裁判所が職権で再生手続を廃止する | 民事再生法191条1号・2号 |
| 認可後に払えなくなった | 債権者の申立てで再生計画が取り消されることがある | 民事再生法189条1項2号 |
| 認可後、やむを得ない事情で払えない | 期限を最長2年延ばす計画の変更、または免責の申立て(ハードシップ免責。計画の4分の3以上を払い終えているなどの条件がある)の道がある | 民事再生法234条・235条 |
手続が廃止になると、再生計画による借金の減額は受けられません。払えなくなりそうだと気づいた時点で動くのが、いちばん選択肢が残る動き方です。収入が減った、残業がなくなった、急な出費で積立が足りない、といった事情は、依頼先に伝えれば、委員への報告や計画の組み直しを一緒に考えてもらえます。
文例(依頼先の弁護士・司法書士へ):「今月の積立の振込が〇日の期限に間に合いそうにありません。原因は△△で、〇日には払えます。委員さんへの連絡と、来月以降の額の見直しが必要かを相談させてください。」
認可後に返せなくなったときの手順は個人再生が失敗する場合で扱います。手続全体の中で履行テストがどこに入るかは、個人再生の流れで見てください。
積立金の行き先と、弁護士の預り金との違い
東京地裁はこの振込を「分割予納金」と呼んでいます。予納は、手続の費用を前もって納めるという意味です。個人再生委員は、費用の前払と、裁判所が定める報酬を受けられると民事再生法223条9項が定めています。札幌地方裁判所のよくある質問は、別の費用として、個人再生委員を選任する必要があると裁判所が判断した場合に20万円の予納金を案内しています。委員の報酬に充てられる分があるのか、残りがどう扱われるのかは、裁判所と委員の運用なので、依頼先を通じて委員に聞いて、書面で残しておきます。
もう一つ、混同しやすいのが弁護士・司法書士の事務所に払う預り金です。事務所の預り金は、依頼先への費用に備える積立で、履行テストとは目的も払い先も違います。この違いは債務整理の預り金とは?積立金の使われ方で説明しています。両方を同時に払う人は、毎月の合計で家計が回るかを見ます。
積立のためにどこかから借りるのは避けます。新しい借金は返済の原資にならず、計画の見込みを弱めます。家族から出してもらう場合も、誰のお金をいくら入れたかを依頼先に伝えておきます。振込の控えは、日付と金額が分かる形で保管しておきます。
よくある質問
Q. 履行テストの積立は、何か月続けますか?
法律に月数の定めはなく、東京地方裁判所も月数を公表していません。旭川地方裁判所(2020年9月版の案内)は、返済予定額の総額を36で割った額を、申立て後から再生計画の認可・確定までの間、毎月積み立てるとしており、月数ではなく認可までの期間です。千葉地方裁判所の申立書は、家計収支の欄に「履行テストの積立て」を書かせます。月数は申立先と委員の指示で決まるため、依頼先に月数と振込の期限を聞いてください。
Q. 履行テストの振込を1回忘れると、手続は終わりますか?
1回の遅れだけで手続が終わるという定めは、確かめた条文にありません。ただ、東京地裁は「決して振込漏れのないように」と呼びかけています。遅れたとき、または遅れそうなときは、その日のうちに依頼先へ伝えて、委員への連絡を任せます。
Q. 履行テストをしない裁判所もありますか?
法律に定めがないので、裁判所ごとに運用が分かれます。東京地裁は計画弁済予定額を委員の口座に毎月振り込む方法を案内しています。札幌地裁の申立書は、毎月の弁済原資を示して履行可能性を文章で説明する欄を設けていますが、公表資料から積立の有無までは分かりません。申立先でどうなるかは、依頼先に確かめてください。
出典・参考にした公的な情報
- 民事再生法 第174条・第189条・第191条・第223条・第229条・第231条・第234条・第235条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 個人再生に関するQ&A(東京地方裁判所 民事第20部)(東京地方裁判所)
- 個人再生手続の申立てに当たって(令和7年11月1日以降適用)(東京地方裁判所)
- 再生手続開始申立書、陳述書等(小規模個人再生・令和6年1月版)(札幌地方裁判所)
- よくある質問(個人再生)(札幌地方裁判所公表のPDF。作成日の記載なし。2026-10-23閲覧)(札幌地方裁判所)
- 民事再生手続について(旭川地方裁判所の手続案内。ファイル名202009、2020年9月版)(旭川地方裁判所)
- 小規模個人再生手続開始申立書(R6.3.1)の家計収支欄「履行テストの積立て」(千葉地方裁判所)(千葉地方裁判所)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。