任意整理のメリット|他の債務整理と比べて残せるものと選べること
この記事のもくじ
任意整理のメリットは、裁判所を使わずに、対象にする借入先を自分で選べることです。個人再生や自己破産と違って官報に載らず、財産を手放す手続きも、資格の制限もありません。和解の中で将来の利息を付けずに分割できれば、返済総額も小さくなります。その代わり元本は減らないのが原則なので、メリットが生きるのは、元本を3〜5年で返せる人です。
任意整理のメリットを個人再生・自己破産と比べた表
まず、任意整理の特徴を、ほかの2つの手続きと並べます。○はメリットとして当てはまる、×は当てはまらない、を表します。
| 比べる点 | 任意整理 | 個人再生 | 自己破産 |
|---|---|---|---|
| 裁判所を使わずに進む | ○ | ×(地方裁判所) | ×(地方裁判所) |
| 対象にする借入先を選べる | ○ | ×(原則すべて) | ×(原則すべて) |
| 官報に載らない | ○ | ×(民事再生法10条) | ×(破産法10条) |
| 財産を換価する手続きがない | ○ | ○(ただし財産の額で返済額が上がる) | ×(一定の範囲を超える分) |
| 資格・仕事の制限がない | ○ | ○ | ×(復権まで一部の資格) |
| 手続き中の住所の移動に許可が要らない | ○ | ○ | ×(破産手続が終わるまで) |
| 元本が減る | ×(原則そのまま) | ○(法律の下限まで) | ○(免責で責任を免れる) |
表の最後の行が、任意整理のいちばんの弱みです。ほかの行の○は、元本を減らさない代わりに得られるもの、と読むと全体がつかめます。4つの手続きの条件を条文つきで比べた基準の表は債務整理の種類を比較|任意整理・個人再生・自己破産・特定調停の違いにあります。
対象にする借入先を選べる|外せる借金と外したときの扱い
任意整理は借入先ごとの話し合いなので、どの会社を対象にするかを選べます。これが他の手続きにない最大の特徴です。
個人再生と自己破産は、原則としてすべての借金を手続きに入れます。自己破産では、知っていながら債権者名簿に載せなかった借金は免責されません(破産法253条1項6号)。個人再生も、申立てのときに債権者一覧表を出します(民事再生法221条3項)。家族や友人からの借金も載せる対象です。
任意整理で外すことが多い借金と、外したときの扱いは次のとおりです。
| 外すことが多い借金 | 外す理由 | 外したときの扱い |
|---|---|---|
| 保証人がついた借金 | 保証人への請求を避けたい | 今の契約どおり払い続ける |
| ローンが残る車 | 所有権留保の車の引き揚げを避けたい | ローンを約束どおり払う |
| 携帯電話の端末代の分割 | 端末や回線を使い続けたい | 分割を払い続ける |
| 住宅ローン | 家に住み続けたい | 約束どおり払う |
| 奨学金 | 保証人・連帯保証人への請求を避けたい | 返還を続ける |
外す借金が多いほど、和解で軽くなる部分は小さくなります。何を残して何を対象にするかは、家計表の上で毎月の返済額を出しながら決めます。1社だけを対象にする場合の考え方は任意整理は一社だけでもできる?一部だけ整理するときの選び方、保証人つきの借金は保証人がいる借金を任意整理するとどうなる?、住宅ローンは任意整理しても住宅ローンは払い続けられる?で詳しく説明しています。
裁判所・官報・財産・資格に関わらない
裁判所と官報:自己破産と個人再生は裁判所の手続きで、それぞれの法律による公告は官報に載せると定められています(破産法10条・民事再生法10条)。任意整理は裁判所の外での話し合いなので、官報への公告はありません。裁判所に出す書類をそろえたり、裁判所に出向いたりする手間もかかりません。
財産:自己破産では、手続開始の時に持っている財産が破産財団となり、管財人が金銭に換えて債権者に配ります(破産法34条1項)。手元に残るのは、現金99万円や生活に欠かせない家財などです。任意整理には財産を換価する仕組みがないので、預金や保険、完済した車はそのまま持っていられます。
資格と生活の制限:自己破産では、たとえば警備業法が「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」を警備員になれない人に挙げています(3条1号・14条1項)。破産手続が終わるまでは裁判所の許可なしに転居できず(破産法37条)、管財事件では郵便物が管財人に届くことがあります(81条)。任意整理には、こうした制限がありません。
なお、自己破産でも選挙権はなくならないと裁判所の民事事件Q&Aは明記しています。手続きごとの影響を誤解なく比べたいときは、自己破産の側から見た任意整理と自己破産の違い|返済の有無と失うものを比べるも合わせて読んでください。
利息の負担を見直せる|将来利息の有無で変わる返済総額
任意整理では、引き直し計算で確定した残元本を、将来利息を付けずに分割する形を目指して交渉します。兵庫県弁護士会の2009年の要請書は、弁護士の任意整理で「将来利息を付さずに長期分割弁済を提案」する基準が、全国で運用されてきたと説明しています。
将来利息の有無でどれだけ違うかを、元本100万円・年15%で筆者が計算しました(元利均等返済、月利は年利÷12)。
| 返し方 | 月の返済額 | 返済総額 | 利息の合計 |
|---|---|---|---|
| 年15%のまま60回 | 約2万3,790円 | 約142万7,000円 | 約42万7,000円 |
| 年15%のまま36回 | 約3万4,670円 | 約124万8,000円 | 約24万8,000円 |
| 将来利息なしで60回 | 約1万6,670円 | 100万円 | 0円 |
同じ60回でも、利息が付かなければ月の返済は約7,100円軽く、総額は約42万7,000円小さくなります。もちろん、これは将来利息なしで合意できた場合の数字で、業者が利息の回収にこだわれば条件は変わります。
もう一つの見直しは、受任通知のあとの請求です。弁護士・司法書士から書面で受任の通知が届き、本人に直接請求しないよう求められた後に、貸金業者がなお電話や訪問で返済を求めることは、貸金業法21条1項9号で禁じられています。和解の条件が決まるまで、督促の電話に追われずに家計を立て直す時間が取れます。
メリットが小さくなる場合
次のような場合は、任意整理の良さが生きにくくなります。
- 利率がはじめから利息制限法の範囲内の借金:日本司法書士会連合会は、銀行のローンや平成21年6月以降の借入れで利率が利息制限法以下なら、引き直しによる減額は望めないこともあると説明しています。この場合、見直せるのは将来利息と回数の部分です。
- 元本が大きすぎる:60回に分けても月の返済額が家計に収まらないなら、選べることや官報に載らないことの利点より、元本を減らす必要のほうが大きくなります。個人再生との比べ方は次に読む任意整理と個人再生の違い|借金額・収入・住宅で選ぶ分かれ道へ。
- 外したい借金が多い:保証人つき・車・住宅ローンを外すと、対象が小さくなり、返済の軽さも小さくなります。
不利益の側から一つずつ見た整理は、前の記事の任意整理のデメリットは?信用情報・カード・保証人への影響にあります。手続きの全体の仕組みは任意整理とは?仕組み・流れ・向いている人で確かめられます。
メリットを自分の借金に当てはめて確かめるなら、面談で借入先ごとに「対象にするか外すか」と「将来利息なしで和解できた場合の月額」を出してもらい、外した借金の返済と合わせた毎月の合計を家計と比べます。
よくある質問
Q. 任意整理と特定調停は、どちらも話し合いですが何が違いますか?
任意整理は代理人の弁護士・認定司法書士が裁判所の外で借入先と交渉し、特定調停は本人が簡易裁判所に申し立てて調停委員会を交えて話し合います。特定調停でまとまった内容は調停調書になり、約束どおり返さないと調書に基づいて差押えを受けることがあります。費用を抑えて自分で進めたいなら特定調停、交渉を任せたいなら任意整理、という分かれ方が一つの目安です。
Q. メリットが大きいかどうかを、依頼の前に知る方法はありますか?
借入先ごとに、借りた時期・今の利率・残高・毎月の返済額を一覧にして面談に持っていくと、利息の見直しでどれくらい月の負担が変わりそうかを説明してもらいやすくなります。正確な額は、依頼先が取引履歴を取り寄せて計算し直してから分かります。
出典・参考にした公的な情報
- 破産法 第10条・第34条・第37条・第81条・第253条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民事再生法 第10条・第221条・第231条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 警備業法 第3条・第14条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 裁判手続 民事事件Q&A(破産手続開始の決定による制限)(最高裁判所)
- 多重債務者の任意整理における「統一基準」の遵守を求める要請書(2009年11月25日)(兵庫県弁護士会)
- 「多重債務」に陥り(引き直しで減額が望めない場合)(日本司法書士会連合会)
- 民事調停(調停調書の効力)(最高裁判所)
- 貸金業法 第21条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。