家賃滞納で追い出しや鍵の交換をされたら?違法かの判断材料と相談先
今夜入れる部屋がないときは、先に市区町村の福祉事務所か自立相談支援機関へ電話してください。一定期間の宿泊場所と食事を提供する居住支援があります(厚生労働省の案内。内容はお住まいの地域の自立相談支援機関に問い合わせて確かめます)。警察への相談は、鍵の交換や荷物の持ち出しの場面で使えます。
家賃を滞納していても、家主や管理会社が裁判の手続を経ずに、鍵を替える、荷物を運び出す、部屋に入れなくするといった形で追い出すことは、一般に許されないとされています。貸主が建物の明け渡しを強制的に実現する方法として、法律が用意しているのは、裁判と強制執行だからです。ただし、目の前の出来事が違法かどうかは、契約の内容や経緯で変わり、この記事は判断を下すものではありません。ここでは、判断の材料、いまやる記録の残し方、相談先の順番を示します。
なぜ「裁判によらない追い出し」は許されないとされるのか
家賃を滞納したとき、貸主ができることは、まず催告をして、期間内に払われなければ契約を解除することです(民法541条)。解除したあとも、借主が出ていかないときは、裁判で明け渡しを求め、判決や和解調書をもとに強制執行を申し立てます。強制執行は、裁判所の執行官が、借主の占有を解いて貸主に占有を取得させる方法で行います(民事執行法168条1項)。部屋の中の動産は、執行官が取り除いて、債務者などに引き渡すと定められています(同条5項)。つまり、明け渡しの最後の場面でも、鍵を開けて荷物を出す役は、貸主ではなく執行官です。流れの全体は家賃滞納の明け渡し訴訟|訴状が届いてから強制執行までの流れにあります。
法律の条文には「自力救済の禁止」という見出しの規定はありません。しかし、最高裁判所は昭和40年12月7日の判決で、使用貸借の終わった敷地に所有者が承諾なく設けた板囲いを、仮店舗の所有者が実力で撤去した事案について、私力の行使が許される限界を超えるとして、これを許されないとしました。法律に定める手続によらずに、自分で権利を実現することには、限界があるという考え方です。家賃の事案そのものの判決ではありませんが、裁判によらない追い出しを考えるときの手がかりになる考え方です。
契約書や保証会社の約款に、滞納したときの措置が書いてあることもあります。最高裁は令和4年12月12日の判決で、家賃債務保証会社の契約書にある、滞納が賃料3か月分以上になったときに連帯保証人(保証会社)が無催告で解除できる条項と、賃料の2か月以上の滞納、連絡がとれないこと、住宅を相当期間使用していないと認められることなどの事情がそろえば明け渡しがあったものとみなす条項を、いずれも消費者契約法10条に規定する消費者契約の条項に当たるとしました。これは適格消費者団体の差止請求の事件で、鍵の交換そのものを判断した判決ではありません。ただ、契約書に書いてあることが、そのまま通るとは限らない例です。
違法かどうかを考えるときの材料は、次のように並べられます。どれに当てはまるかを整理しておくと、相談先で話が早くなります(当てはめと結論は、弁護士や相談窓口の仕事です)。
| 見る点 | 確かめること |
|---|---|
| 誰が、どんな手段で | 鍵の交換や荷物の運び出しをしたのが、貸主・管理会社・保証会社側か。裁判所の執行官による強制執行か(執行官は、判決や和解調書などを基に、裁判所の手続として動く) |
| 手続の有無 | 解除の通知や催告の書面が届いたか。訴状や判決、和解調書があるか |
| 荷物の扱い | 運び出された物の範囲、保管場所、本人への連絡の有無 |
| 契約書・約款の条項 | 滞納時の措置が書いてあるか。書いてあるなら、条文と日付を写真に残す |
| 本人の事情 | 入居を続ける意思を伝えたか、連絡が取れない状態だったか |
起きたことごとに、記録して相談する
| 起きたこと | 最初にやること | 相談先 |
|---|---|---|
| 鍵を替えられて入れない | 入口と錠の状態を写真に撮る。誰がいつ替えたかを管理会社・家主に文章で尋ねる | 警察、消費生活センター、弁護士会 |
| 荷物を運び出された・処分すると言われた | 処分しないよう文章で伝え、保管場所と受け取りの日時を尋ねる | 消費生活センター、弁護士会 |
| 「今月中に出ていけ」と言われた | 言われた日時と言葉をメモし、書面で出すよう求める | 弁護士会、自治体の自立相談支援機関 |
| 部屋の前の貼り紙・連絡が増えた | 貼り紙は剥がさず撮影し、受け取った書類はすべて保存する | 管理会社へ連絡、消費生活センター |
どの場面でも、まず証拠が残るかどうかで、あとの相談のしやすさが変わります。次の項目を、できるだけその日のうちに残します。
- 日時と場所の写真(鍵、ドア、貼り紙、部屋の中の荷物の状態)
- 家主・管理会社・保証会社とのメール、LINE、SMS、留守番電話の画面や録音
- 言われたことのメモ(日時、相手の名前、言葉どおりに)
- 受け取った書類(催告書、解除通知、請求書)の原本と、封筒
- 家賃の入金の記録(通帳や振込明細)と、賃貸借契約書
入れなくなった夜の動き方では、自分で錠を壊したり、窓から入ったりする前に、警察、管理会社、弁護士会に聞いてください。別のトラブルにつながるおそれがあるためです。泊まる場所がなくなる事態に備えて、自治体の自立相談支援機関では、一定期間の宿泊場所と衣食を提供する居住支援を行うことが、厚生労働省の案内に載っています。利用できるかどうかや内容は、お住まいの地域の自立相談支援機関に問い合わせて確かめます。
相談先の使い分け
相談先は、目的で選びます。窓口の電話番号と受付時間は、借金の相談窓口はどこ?公的な窓口の番号・受付時間と選び方にまとめてあるので、ここでは役割だけ書きます。
- 警察:緊急のときは110番です。緊急でない相談は、最寄りの警察署か警察相談専用電話に事実を伝えます。「裁判の手続を経ずに鍵を替えられた」と具体的に話します。
- 消費生活センター:契約書の条項や、管理会社・保証会社の対応について相談できます。消費者ホットラインから最寄りの窓口につながります。
- 弁護士会・法テラス:契約書を読んでもらい、いま何が問題になりうるかを聞けます。個別の見通しは弁護士の仕事なので、書類を持って相談します。
- 自治体の自立相談支援機関:住まいと家計の立て直しを相談します。家賃を払うための支援や、住む場所がなくなる前の準備を一緒に考えてもらえます。
追い出されないためにできること
違法かどうかの判断とは別に、滞納が残っていることは変わりません。解除や明け渡しの話に進む前に、分割や猶予の相談を始めておくと、選べる道が増えます。
- 家主への連絡と分割の頼み方は、家賃滞納分の分割払いをお願いするときの伝え方|大家への文例にあります。
- 保証会社から督促が来ているなら、家賃滞納で保証会社から督促が来たら|代位弁済後の請求と話し合いを先に見ます。
- 何か月滞納すると契約が解除されうるのかは、家賃滞納は何ヶ月で退去になる?月数の決まりはなく、解除と明け渡しの流れで整理しています。
- 生活保護を受けているなら、住宅扶助の代理納付という道があります。生活保護で家賃を滞納したら|住宅扶助の代理納付と相談先を読んでください。
よくある質問
Q. 鍵を替えられたとき、警察を呼べば開けてもらえますか?
警察が部屋を開けるとは限りません。警察に相談するときは、「家賃は滞納しているが、裁判の手続を経ずに鍵を替えられた」という事実と、日時、管理会社や家主の名前、連絡の記録を具体的に伝えます。事件として扱うか、どんな助言をするかは、事情を聞いた警察が判断します。
Q. 荷物を勝手に処分されそうなときは、どうすればよいですか?
まず、処分しないよう文章(メールや書面)で伝え、保管場所と受け取りの日時を尋ねます。部屋の中の状態は、入れる範囲で写真に撮ります。応じてもらえないときは、消費生活センターや弁護士会の相談窓口に、残した記録を持って相談します。
Q. 契約書に「滞納したら鍵を交換できる」と書いてあるときは?
契約書に書いてあるからといって、その条項で直ちにやってよいとは限りません。最高裁は令和4年12月12日、家賃債務保証会社の無催告解除や「明渡しがあったものとみなす」条項について、消費者契約法10条の条項に当たるとしました。自分の契約の条項は、弁護士会などで読んでもらいます。
出典・参考にした公的な情報
- 民事執行法 第168条(不動産の引渡し等の強制執行)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法 第541条・第601条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 最高裁判所 昭和40年12月7日判決(占有回収等請求事件・私力行使の限界)(裁判所)
- 最高裁判所 令和4年12月12日判決(消費者契約法12条に基づく差止等請求事件)(裁判所)
- 生活困窮者自立支援制度(自立相談支援事業・居住支援)(厚生労働省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。