任意整理中に給料差し押さえはある?裁判を起こされた場合の流れ
任意整理を頼んでいても、和解の前に業者が裁判(訴訟)や支払督促を起こし、判決などを得れば、給料の差し押さえに進むことはあります。受任通知で止まるのは本人への電話・訪問などの直接の請求で、裁判を起こすことまでは止まらないからです。裁判所から書類が届いたら、その日のうちに依頼した事務所に知らせてください。差し押さえが始まった後に法律の効果で止めたいときは、個人再生や自己破産への切り替えを事務所と相談します。
任意整理中に給料差し押さえが起きるのはどんなときか
給料を差し押さえるには、業者が「債務名義」という書類を持っている必要があります。確定判決、仮執行宣言が付いた判決や支払督促、裁判所での和解調書、強制執行を認める文言の入った公正証書などです(民事執行法22条)。任意整理の通知を出しただけでは、業者の手元にこの書類はありません。差し押さえが起きるのは、次のような場面です。
| 場面 | 何が起きているか | 差し押さえまでの距離 |
|---|---|---|
| 依頼する前から延滞が長い | 依頼の時点で、すでに訴えや支払督促が準備されている | 近い |
| 受任通知の後、和解の話し合いが進まない | 業者が話し合いより裁判での回収を選ぶ | 書類が届けば近い |
| 依頼の前に判決や支払督促が確定していた | すでに債務名義がある | いつでも申し立てられる |
| 裁判所での和解(和解調書)の後に返済が遅れた | 和解調書が債務名義になる | 遅れれば近い |
| 裁判の外で和解した後に返済が遅れた(和解書が公正証書でない場合) | 業者はもう一度裁判を起こす必要がある | 裁判を経てから |
| 和解を強制執行を認める文言のある公正証書にしていた | 公正証書が債務名義になる | 遅れれば近い |
受任通知の効果は、貸金業法21条1項9号にあります。弁護士・司法書士から書面で通知があり、直接請求しないよう求められたのに、なお電話・訪問などで請求することを禁じる決まりで、訴えの提起を禁じるものではありません。止まるもの・止まらないものの全体は、債務整理の受任通知で督促が止まる仕組みと止まらない支払いで説明しています。
裁判を起こされた場合の流れと期限
業者が使う手続きは、主に「支払督促」と「訴訟」の2つです。どちらも、期限までに対応しないと差し押さえに進める書類ができてしまいます。
| 段階 | 届く書類 | 期限・時期 | 放っておくと |
|---|---|---|---|
| 1 | 支払督促 | 受け取った日から2週間以内に督促異議 | 2週間を過ぎると、業者の申立てで仮執行宣言が付けられる |
| 2 | 仮執行宣言付支払督促 | 受け取った日から2週間以内に督促異議 | 異議がなければ確定し、確定判決と同じ効力になる。宣言が付いた時点で差し押さえの申立てはできる |
| 1' | 訴状と期日の呼出状 | 呼出状に書かれた答弁書の提出期限と期日 | 原告の請求どおりの判決が出ることがある |
| 3 | 差押命令(本人と勤務先に届く) | 本人に届いてから4週間たつと業者が取り立てられる | 毎月の給料から差し引かれる |
支払督促は、裁判所書記官が業者の言い分だけを見て出す書類です。督促異議を出すと通常の裁判に移り、その中で分割払いの和解を話し合う道があります。訴状の場合は、答弁書を出さずに最初の期日を欠席すると、訴状に書かれた主張を認めたものとして扱われ、請求どおりの判決が出ることがあります。簡易裁判所では、被告が争わないとき、裁判所が原告の意見を聴いて5年を超えない範囲の分割払いを命じる決定(和解に代わる決定、民事訴訟法275条の2)をすることもあります。書類の読み方と答弁書の準備は、支払督促が届いたときの異議申立ての期限と借金で訴状が届いたときの答弁書と期日の準備にまとめています。
差押命令は、本人や勤務先の言い分を聞かずに出され、勤務先に届いた時点で効力が生じます。給料のうち差し押さえられるのは、次の額までです(民事執行法152条、同法施行令2条)。
| 手取りに当たる額(月) | 差し押さえが禁止される額 | 差し押さえられる額(筆者の計算) |
|---|---|---|
| 20万円 | 15万円(4分の3) | 5万円 |
| 30万円 | 22.5万円(4分の3) | 7.5万円 |
| 44万円 | 33万円(4分の3) | 11万円 |
| 50万円 | 33万円(上限) | 17万円 |
基準の額は、税金や社会保険料を引いた後の額で考えるのが一般的な扱いです。正確な計算のしかたは差押命令に付いた「差押債権目録」に書かれます。勤務先にどう知られるかは、給料の差し押さえはいくらまでか、会社への通知で扱っています。
事務所に連絡すべき時期と、伝えること
裁判所の書類は、期限が「受け取った日から2週間」のように短く決まっています。封筒を受け取ったその日に、依頼している事務所に連絡します。開けずに放っておくのがいちばん危険です。
- 封筒の差出人の裁判所名、書類の名前(支払督促・訴状・差押命令など)、受け取った日をメモする。
- 事務所に電話し、書類の写真や写しを送る。期日の日時と、答弁書や異議の期限を伝える。
- 事務所が代理人として対応するのか、自分で裁判所に出す書類があるのかを確かめる。
- 差押命令が届いた場合は、勤務先の担当部署(給与の担当)から連絡が来る前提で、伝え方を決めておく。
文例(事務所への連絡):「任意整理をお願いしている○○です。本日、△△簡易裁判所からA社の支払督促が届きました。受け取ったのは○月○日です。異議の期限と、私がすることを教えてください。書類の写真をメールでお送りします。」
認定司法書士が代理できる簡易裁判所の事件は、1社あたり140万円以下の請求です。それを超える訴えが地方裁判所に起こされた場合は、司法書士は代理人になれず、書類作成の支援か弁護士への依頼になります。事務所に連絡するときに、どの裁判所から届いたかを伝えると話が早く進みます。債務整理の途中で訴えられた場合に事務所へ伝えることは、債務整理中に訴えられたときの対応でも整理しています。
個人再生や自己破産に切り替えると止まる時点
任意整理は裁判の外での話し合いなので、すでに始まった差し押さえを止める法的な効果はありません。差し押さえた業者と和解して取り下げてもらうか、裁判所の手続きに切り替えるかのどちらかになります。生活が成り立たない場合は、差押命令を出した裁判所に、差し押さえの範囲を変える申立て(民事執行法153条)をする道もありますが、認められるとは限らず、早めに動く必要があります。
| 手続き | 差し押さえが止まる時点 | その後 |
|---|---|---|
| 個人再生 | 申立て後の中止命令(民事再生法26条)か、再生手続の開始決定(同39条)で中止 | 再生計画の認可の決定が確定すると、中止していた差し押さえは効力を失う(同184条) |
| 自己破産(管財事件) | 破産手続の開始決定で、財産への差し押さえはできなくなり、すでにされたものは効力を失う(破産法42条) | 開始後に得た給料は原則として本人のもの |
| 自己破産(同時廃止) | 開始と同時の廃止決定と免責の申立てで、免責の裁判が確定するまで中止(同249条1項) | 免責許可の決定が確定すると効力を失う(同249条2項) |
どちらも、申し立てただけで自動的に止まるわけではなく、裁判所の決定の時点から止まります。切り替えると、住宅や車などの財産の扱い、返す額の決まり方も変わります。違いは任意整理と個人再生の違いと差し押さえされた後でも債務整理できるかで比べています。
これから依頼先を選ぶ人は、裁判を起こされたときに代理人として対応できるか(弁護士か、140万円以下なら認定司法書士か)、個人再生や自己破産に切り替えるときの費用の書面、面談の有無の3点を、相談の場で確かめておくと安心です。前に読む任意整理で延滞損害金と将来利息はどうなるかでは和解の中身を、次に読む任意整理するとクレジットカードは使えるかでは生活への影響を扱っています。
よくある質問
Q. 弁護士に任意整理を頼めば、裁判を起こされることはありませんか?
依頼して受任通知が届くと、貸金業者は本人に電話や訪問で直接請求することが原則としてできなくなります。ただ、裁判を起こすことまで禁止する決まりではないので、和解の前に訴えや支払督促を起こされることはあります。届いたらすぐ事務所に知らせ、期限に間に合うように対応してもらいます。
Q. 給料はいくらまで差し押さえられますか?
手取りに当たる額の4分の1までが基本で、4分の3は差し押さえが禁止されています。ただし手取りが月44万円を超えると、33万円を残して残りが差し押さえの対象になります。手取り20万円なら5万円、50万円なら17万円です(筆者の計算)。
Q. 給料の差し押さえが始まってからでも、任意整理はできますか?
任意整理は裁判の外での話し合いなので、それだけで差し押さえを止める法的な力はありません。差し押さえた業者と和解して取り下げてもらう話し合いになります。法律の効果で止めるなら、個人再生や自己破産の手続きで、開始決定などの時点から止まる仕組みを使います。
出典・参考にした公的な情報
- 貸金業法 第21条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民事訴訟法 第158条・第159条・第275条の2・第386条〜第396条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民事執行法 第22条・第145条・第152条・第153条・第155条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民事執行法施行令 第2条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民事事件Q&A(給料の差押え・差押範囲変更の申立て)(裁判所)
- 簡易裁判所の民事事件Q&A(支払督促・訴訟の相手方になった場合)(裁判所)
- 民事再生法 第26条・第39条・第184条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 破産法 第42条・第249条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 司法書士法 第3条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。