差し押さえされた後でも債務整理できる?手続き別に止められるもの
差し押さえをされた後でも、債務整理はできます。ただし、差押えを止められる手続きと止められない手続きがあります。個人再生と自己破産は、裁判所が開始の決定を出すと、差押えが中止または効力を失います。任意整理には、すでに裁判所が出した差押えを止める法律上の効果がありません。差押えを受けている人は、取立てが始まる前に動くほど、取られる額を小さくできます。
手続き別に、差押えが止まる時点
差押えを止められるかは、手続きごとの法律が決めています。表で比べます。
| 手続き | 差押えが止まる時点 | 根拠と注意 |
|---|---|---|
| 任意整理 | 法律上は止まらない | 裁判外の交渉なので、差押えを止める効果がない。債権者が応じて取り下げる場合は、話し合いしだい |
| 特定調停 | 裁判所の判断で停止できる場合がある | 申立てにより、担保を立てさせて、または立てさせずに、執行の停止を命じる制度がある(特定調停法7条)。止まるか、担保が要るかは裁判所が決める |
| 個人再生 | 申立て後は中止命令、開始決定で中止、認可の確定で失効 | 申立てだけでは止まらない。中止命令(民事再生法26条)か開始決定(同法39条)が要る。失効は認可確定のとき(同法184条) |
| 自己破産(管財事件) | 申立て後は中止命令、開始決定で、破産財団への執行は効力を失う | 中止命令は破産法24条、効力を失うのは同法42条 |
| 自己破産(同時廃止) | 申立て後は中止命令、廃止決定と免責の申立てで中止、免責の確定で失効 | 中止命令は破産法24条、中止と失効は同法249条 |
ここで押さえておきたいのは、止まる時点が「申立ての日」ではなく「裁判所の決定の日」だという点です。弁護士・司法書士に依頼して申し立てても、決定が出るまでの間は、差押えを受けた給料や預金の取立てが進みます。
差押えを受けていても、手続きは始められる
債務整理を始める要件は、手続きごとに決まっています。
- 自己破産:支払不能であること。収入や財産から見て、弁済期の来た借金を継続的に返せない状態をいいます(破産法15条・2条11項)。
- 個人再生:破産手続開始の原因となる事実が生じるおそれがあること、または事業に著しい支障を来さずには弁済期にある債務を返せないことです(民事再生法21条)。
どちらの条文にも、差押えを受けているかどうかは出てきません。すでに差押えを受けている事実は、「返済が行き詰まっている」ことを示す事情として手続きの中で説明する材料になります。
ただし、手続きを選ぶ段階では次の点を弁護士・司法書士に見てもらってください。
- 差押えを止めたいのか、取られた分を取り戻したいのか:止める手続きと、すでに債権者へ渡った分では、結果が違います。
- 収入が続くか:個人再生は、継続して収入を得る見込みが前提です(民事再生法221条)。収入が途絶えていると、個人再生は使えない場合があります。
- 差押えの対象が何か:給料なのか預金なのか、その両方なのか。対象によって、取立てのタイミングも、守りたい生活費も違います。
急いで相談したほうがよい理由
差押えを受けたあとの取立ては、手続きが始まるのを待ってくれません。民事執行法の決まりを順に見ます。
- 効力が出る時:債権の差押えは、勤務先や銀行(第三債務者)に差押命令が送達された時に効力が生じます(民事執行法145条)。事前の通知はありません。
- 取立てが始まる時:債権者は、債務者に差押命令が送達された日から、預金なら1週間、給料なら4週間(養育費などを含まない場合)を経過すると取り立てられます(同法155条)。
- 給料の差押えの範囲:支払期に受けるべき給与の4分の3は差し押さえられません。月払いなら、その額が33万円を超えるときは33万円が上限です(同法152条、施行令2条)。筆者の計算では、差押えの基準になる給与が月20万円なら差押え可能額は5万円、40万円なら10万円、50万円なら17万円です(税金や社会保険料をどう引くかは、差押命令の書類と執行裁判所の説明で確かめてください)。裁判所の案内も、月44万円を超えると33万円を除いた全部を差し押さえられる、と説明しています。
- 続く期間:給料の差押えは、請求額と執行の費用に達するまで毎月続きます。
預金の差押えは、取立てまでの猶予が1週間と短い点に注意が必要です。差押えの効力は送達の時に生じるので、その時点で口座にある生活費が取立ての対象になり得ます。口座の準備は債務整理で口座凍結される?凍結の理由と手続きの前にやることで扱っています。
差押えの通知が届いたらやること
- 書類を捨てずに全部そろえる:裁判所から届いた「債権差押命令」と、その前に届いた判決や支払督促、督促状です。書類の読み方は差押命令とは?裁判所から届く書類の読み方と次にすることにあります。
- 差押えの日付を確かめる:命令が会社や銀行に送達された日が、取立ての開始日を決めます。書類に書かれた裁判所と事件番号を控えます。
- 勤務先に聞かれたら事実だけ答える:給料の差押えでは、会社が差押えの事務をします。会社に伝わる範囲は給料差し押さえは会社にバレる?会社に届く書類と職場での扱いで整理しています。
- 弁護士・司法書士か、法テラスに書類を持って相談する:書類を見せると、どの手続きで、いつまでに申し立てるかを組み立てられます。公的な窓口は借金の相談窓口はどこ?公的な窓口の番号・受付時間と選び方にあります。
文例(相談の申込み):「給料の債権差押命令が会社に届きました。送達の日付と事件番号は書類のとおりです。取立てが始まる前に、差押えを止められる手続きを知りたいので、書類を持って早めに相談したいです。」
生活が成り立たなくなるほどの差押えには、裁判所に「差押禁止債権の範囲の変更」を申し立てる制度もあります(民事執行法153条)。債権者が第三債務者から支払を受ける前に申し立てる必要があり、認められても借金は減りません。仕組みは差し押さえを解除するには?取消しや範囲変更の申立てと債務整理で整理しています。給料の差押えの金額は給料の差し押さえはいくらまで?4分の1の決まりと会社への通知で計算例を示しています。
手続きごとの注意点
任意整理で差押えがあるとき:任意整理は、交渉で将来の利息などを見直す手続きです。すでに判決や支払督促で債務名義を取られ、差押えまで進んでいる借金は、債権者が交渉に応じるとは限りません。任意整理中に給料の差押えを受ける場面は、任意整理中に給料差し押さえはある?裁判を起こされた場合の流れで扱います。
個人再生で差押えがあるとき:開始決定までの間、裁判所は必要があると認めるとき、強制執行などの中止を命じられます(民事再生法26条)。中止命令を求めるかどうかは、依頼先と相談して決めます。
自己破産で差押えがあるとき:申立てをしてから開始決定までの間も、裁判所は必要があると認めるとき、すでにされている強制執行の中止を命じられます(破産法24条1項1号)。開始後は、管財事件と同時廃止事件で止まる法律上の根拠が違います。分かれ目と費用は自己破産の同時廃止と管財事件の違い|分かれ目と費用・期間で確かめてください。
税金や社会保険料の差押え:役所の滞納処分は、裁判所の差押えとは別の仕組みで進みます。破産や再生で止まるかどうかは、税金の種類によって扱いが複雑です。断定せず、弁護士・司法書士と、差押えをした役所の担当窓口の両方に確かめてください。
手続きの種類そのものの違いは債務整理の種類を比較|任意整理・個人再生・自己破産・特定調停の違いで比べています。前の記事の官報とは?債務整理で官報に載る手続きと載らない手続きは、手続きが公に載るかを扱い、次の債務整理中に訴えられたら?裁判になる場合と事務所に伝えることは、裁判を起こされたときの動き方を扱います。
事業用の口座や売掛金が差し押さえられた個人事業主は、個人事業主の債務整理で、事業の借入と税金の扱いも確かめられます。
よくある質問
Q. 差押えの通知が来てからでも、債務整理を頼めますか?
頼めます。債務整理を始める要件は、破産なら支払不能であること、個人再生なら破産の原因となる事実が生じるおそれがあることなどで、差押えを受けているかどうかは条文の要件に出てきません。届いた差押命令の書類をそろえて、できるだけ早く弁護士・司法書士に見せてください。
Q. 弁護士に依頼すれば、その日から差押えは止まりますか?
依頼しただけでは止まりません。受任通知で止まるのは業者からの督促で、すでに裁判所が出した差押えを止める効果はありません。個人再生や自己破産は、裁判所の中止命令や開始決定などを経て止まるので、申立てから決定までの間も取立てが進むことがあります。
Q. 差し押さえられていた給料は、手続きのあと戻ってきますか?
戻るかどうかは、手続きの種類と、差押えの分がすでに債権者へ渡ったかどうかで変わります。同時廃止の自己破産では免責が確定するまで「中止」の状態が続き、その間の分の扱いが決まりません。個別の見通しは、依頼先の弁護士・司法書士に差押命令の書類を見せて聞いてください。
出典・参考にした公的な情報
- 破産法 第15条・第24条・第42条・第249条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民事再生法 第21条・第26条・第39条・第184条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律 第7条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民事執行法 第145条・第152条・第153条・第155条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民事執行法施行令 第2条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民事事件Q&A(差押範囲変更の申立て・取立てなど)(裁判所)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。