債務整理で弁護士が辞任するのはどんなとき?辞任を防ぐ注意点
債務整理を頼んだ弁護士が辞任するのは、依頼者との信頼関係が失われ、回復も難しいと弁護士が判断したときです。弁護士職務基本規程43条は、そうなった弁護士に、その旨を依頼者に説明して辞任などの措置をとることを求めています。具体的には、連絡が取れない、費用や積立が滞る、依頼時に伝えていなかった借金が出てくる、といった事情が重なる場面です。辞任されても借金は消えず、受任通知で止まっていた業者の直接の請求が戻りえます。その日のうちに、書類と精算書を受け取り、別の事務所へ相談する準備を始めます。司法書士に頼んだ場合の辞任も、基本の考え方は同じです。
債務整理で弁護士が辞任するのは、どんなときか
辞任の根拠は2つあります。1つは弁護士職務基本規程43条で、受任した事件について依頼者との間に信頼関係が失われ、その回復が困難なときは、その旨を説明し、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとらなければならない、という定めです。もう1つは委任契約書の条項と民法651条で、委任は各当事者がいつでも解除できるとされています。
どんな事情が信頼関係を失わせるかは、条文には書かれていません。ここでは、債務整理の手続きが依頼者の協力で進むことから、辞任の理由になりうる事情を整理します。実際に何が理由になるかは、依頼時にもらった委任契約書の「解除」「辞任」の条項で確かめてください。
| 事情 | 手続きで何が止まるか | 防ぐ行動 |
|---|---|---|
| 連絡が取れない | 和解案の可否の返事、書類への署名、収入や住所の変化の確認ができない。弁護士は進み具合を依頼者に報告し、相談して進めることになっている(規程36条) | 電話に出られる時間帯と、メールで返事をしてよいかを最初に伝える。住所・電話番号・勤務先が変わったらすぐ知らせる |
| 積立・費用が滞る | 事務所を通じて返済する形(支払代行)では、積立が止まると、和解で決めた支払日に送金できない | 払えないと分かった時点で、支払日の前に事情を伝える。収入が減った理由と、いつからいくらなら払えるかを書く |
| 依頼時に借金を伝えていない | 受任通知を出していない業者から請求が来る。方針も費用も前提が変わる | 家族・友人からの借金、後払い、奨学金、保証している借金も全部、最初の一覧に入れる |
| 依頼後に一部の業者にだけ返す・新たに借りる | 手続きの公平さが崩れ、方針の見直しが要る | 返す前、借りる前に事務所に相談する |
最後の行は、手続きによって理由がはっきりしています。自己破産では、特定の債権者に特別の利益を与える目的で、義務でない(または方法・時期が義務でない)債務の消滅行為をしたことや、虚偽の債権者名簿を出したことが、免責不許可事由に挙げられています(破産法252条1項3号・7号)。個人再生でも、手続きの開始後は再生計画によらずに再生債権を返済することが禁じられます(民事再生法85条1項)。任意整理にはこうした条文はありませんが、各社への和解の前提が崩れるのは同じです。
債務整理事件の規程は、受任する前に、受任する弁護士自身が依頼者と面談して、債務の内容、資産・収入・生活の状況を聴き取ることを求めています(日本弁護士連合会の規程3条)。司法書士の指針も、他に債務があるのに聴かずに過払い金の請求だけを受任することを禁じています(指針7条2項)。聴き取りの時点で借金を伝えておけば、後から出てきて信頼関係を損なうことを避けられます。借入れの一覧の作り方は借金の相談に持っていく書類と準備|借入一覧と家計表の作り方にあります。
和解のあとで辞任されたとき、何が起きるか
辞任の通知から順に、起きることを並べます。「任意整理 和解後 辞任」で調べる人は、とくに3と4を読んでください。
- 辞任の通知が届く。 弁護士は規程43条で、辞任の理由を依頼者に説明する立場にあります。口頭だけで済ませず、書面かメールで受け取ります。
- 業者に委任の終了が伝わる。 貸金業法21条1項9号が直接の請求を禁じる前提は、債務者が債務の処理を弁護士等に委託し、書面で通知があったことです。委託が終わると、この前提が失われ、業者が本人に電話や郵便で請求することが再びありえます。受任通知の範囲は債務整理の受任通知とは?督促が止まる仕組みと止まらない支払いで条文どおりに読めます。
- 和解が済んでいた業者の返済は、続く。 和解書の支払日、金額、振込先は、辞任があっても変わりません。事務所を通じて返済していた場合は、辞任後の送金先と最初の支払日を事務所と業者の両方に確かめます。
- 遅れると、和解書の定めに従う。 何回分遅れると残りを一括で払う条項になっているかは和解書に書かれています。払えなくなったときの再和解は任意整理の返済が払えないとき|遅れたらどうなるかと再和解で整理しています。
- 交渉の途中だった業者は、白紙に戻らない。 取引履歴や引き直し計算の結果は、事務所から受け取って新しい依頼先に渡します。
訴状や支払督促が届いたときは、書類に異議や答弁の期限があります。辞任の通知を受け取った日と同じ日に、期限の日付を確かめて、新しい事務所に相談するときの最優先の話題にします。
辞任を告げられたら、その日にすること
次の順に進めます。
- 辞任の日付と理由を、書面かメールで受け取る。
- 事務所から次の書類を受け取る(弁護士は委任の終了時に、事件の状況や結果を依頼者に説明し、預り金を精算して返す立場にあります。規程44条・45条)。
- 各社の和解書・和解案の写し
- 取引履歴と引き直し計算の結果
- 受任通知を出した業者の一覧
- 預り金・費用の精算書
- 業者ごとの現状表を作る(和解済み、交渉中、未着手の別と、次の支払日、残高)。
- 次の支払日が先にある業者は、日付の前に支払い方法を決める。
- 新しい依頼先に相談する。
事務所への依頼メールの文例です。
文例:「辞任のご連絡を受け取りました。次の書類を、○月○日までにメールか郵送でいただきたいです。各社の和解書の写し、取引履歴と引き直し計算の結果、受任通知を送った業者の一覧、預り金の精算書。あわせて、辞任後の和解金の支払い先と、○月○日の支払日の扱いを教えてください。」
新しい事務所には、辞任された事実と理由を隠さずに話します。伝えておけば、前の事務所で進んだ分を引き継ぐ形で計画を組めます。
別の事務所に頼み直すときの確かめ方
前の事務所に払ったお金がどう扱われるかは、新しい依頼先の費用とあわせて考えます。
- 精算: 前の事務所の委任契約書の精算の条項を読み、精算書の内訳と合うかを見る。日本司法書士会連合会の指針の解説は、依頼者が積立中に払えなくなって解除となり、受任通知を送った程度しか作業をしていないのに、着手金を一切返さない扱いは、消費者契約法に違反するおそれが高いと述べています(対象は司法書士ですが、委任契約の精算を考える材料になります)。
- 費用: 新しい事務所の見積書で、総額、追加費用が出る条件、途中でやめたときの返金を確かめる。見方は債務整理の料金の見積書で確かめる項目|総額・追加費用・返金の条件にあります。積立金の仕組みは債務整理の預り金とは?積立金の使われ方と返金される場合です。
- 面談: 受任する弁護士・司法書士本人と話せるかを確かめる。オンラインで進む場合の確かめ方は債務整理はオンライン面談でできる?面談が求められる理由と確かめ方にあります。
- 費用が払えない場合: 法テラスの立替など、公的な制度で費用を分けられることがあります。相談先の番号と受付時間は借金の相談窓口はどこ?公的な窓口の番号・受付時間と選び方に書いてあります。
前の事務所の対応に納得できない点があるときは、所属の弁護士会に苦情や懲戒の請求をする方法があります。日本弁護士連合会の説明では、懲戒の請求は依頼者以外の人もでき、請求先は弁護士が所属する弁護士会です(弁護士法58条)。懲戒の事由があったときから3年を過ぎると、懲戒の手続きを始められません(同法63条)。費用の精算で揉めたときは、消費生活センターも使えます。
司法書士に頼んだ場合の依頼の範囲と、受任できなくなる場合の見分け方は、債務整理を司法書士に頼むときの流れと頼めない場合の見分け方で確かめられます。
事務所に頼み直すなら、予約の前に、これまでの経緯(辞任の理由、和解が済んだ業者と未着手の業者)を3行で書いたメモを用意しておくと、面談の時間を有効に使えます。依頼先で何をしてもらえるのかは債務整理を弁護士に頼むと何をしてくれる?依頼者がすることと流れで確かめられます。手続き全体のどこまで進んでいたかは、次に読む債務整理の手続きの流れ|相談・受任通知から和解や申立てまでで照らし合わせられます。
よくある質問
Q. 弁護士に辞任されると、借金はどうなりますか?
借金は残ります。辞任で終わるのは依頼先との委任契約で、借入先との契約ではありません。和解が済んでいた分は和解書の返済が続き、交渉の途中だった分は、新しい依頼先を見つけるまで業者への対応を自分で受けることになります。
Q. 辞任された弁護士に、払った着手金や積立金の返金を求められますか?
返金の範囲は委任契約書の精算の条項と、それまでにした作業で決まります。弁護士職務基本規程45条は、委任の終了時に預り金を精算して返還することを弁護士に求めています。精算書を書面で出してもらい、内訳に疑問があるときは別の事務所にも見てもらってください。
Q. こちらから弁護士を替えたいときも、同じ手順ですか?
民法651条により、委任は依頼者の側からもいつでも解除できます。ただし、相手に不利な時期の解除はやむを得ない事由がない限り損害賠償の対象になりえます。新しい事務所を決めてから、前の事務所に解除と精算を申し出る順にすると、請求の空白期間を作らずに済みます。
出典・参考にした公的な情報
- 弁護士職務基本規程(会規第70号)第36条・第43条〜第45条(日本弁護士連合会)
- 債務整理事件処理の規律を定める規程(会規第93号)(日本弁護士連合会)
- 懲戒制度(日本弁護士連合会)
- 債務整理事件の処理に関する指針(令和7年)第16条・第17条(日本司法書士会連合会)
- 債務整理事件の処理に関する指針の解説(日本司法書士会連合会)
- 民法 第651条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 貸金業法 第21条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 弁護士法 第58条・第63条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 破産法 第252条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。